陶磁器の成形技法 前半
私達の作品の製造工程
今回は、私共イワオ陶ナリテ(いわおとなりて)の作品をどのように作っているのかを陶芸の基礎知識なども少し交えながら紹介させていただきたいと思います。長くなってしまいましたので、2回に分けてご説明いたします。前半は使用する粘土から素焼きまで。後半は絵付けから本焼き、検品までとなります。
粘土について
焼き物に使う土としては大きく分けると陶土と磁土とありまして、私達は磁土を使用しています。私達の使う磁土は、陶石と呼ばれる長石や硅石を主成分としたものに、粘土成分を合わせて作ったものを使用しています。磁土の特徴としましては、陶器に比べて白く焼き上がります。薄く作るのに向いていて、叩いてみるとキンキンと澄んだ音がします。それに吸水性がほとんどありません。そしてその作品には透光性があります。透光性というのは、器を太陽や電灯などの光源にかざすと光が透けて見えることです。
土練り
土練りは粘土の中の空気を抜くためと、全体の硬さを均一にするために行います。磁器土の練り方は、陶器の粘土のように菊の花びらのような形に練る、菊練り(きくねり)とは少し違い、なるべくヒダが出来ないように練る、タニシ練りという方法で行います。磁器の粘土は原料屋さんが真空土練機で練ってくれていて、近年は土練機の性能が良いものですから、そのまま使うことも多いですが、しばらく置いておいたりすると、表面が硬くなることもありますので、その時は上記のタニシ練りをします。また、生素地の状態で上手くいかなかったものや、削り仕上げで出た削り粉などは再生してまた使用しますが、その時にも土練りをします。「土練り3年ロクロ10年」と言われるように、修練が必要な技術です。これは一人前になるための目安であります。年齢を重ねていき、技術や肉体の変化が訪れれば、それらの技法は更にそぎ落とされ深まっていきます。
成形
電動ろくろ
湯呑やごはん茶碗から徳利や大きな花瓶まで、基本的に円形で左右対称の作品を作る時に使います。陶芸といえばこれだよね、と思われる方も多いと思います。電動モーターが付いた円盤の上で粘土を回転させていくと遠心力がかかります。そこに水分を与えて、手と粘土の摩擦が少なくなるようにして作っていきます。これを水引(みずびき)と言います。基本的には左右対称のものですが、非対称にしたい場合は、水引したあと柔らかいうちに変形をさせます。器の底の部分はこの時には作れませんので、ある程度乾燥させてからひっくり返した状態でマガリ(カンナ)という帯鉄でできた道具で削ります。
たたら成形
この技法では、皿や角のある花瓶、円筒形のカップや花瓶、型などに押し付けて多様な形を表現できます。
粘土の塊の両側に、同じ厚みの板を重ねて置き(たたら板)、シッピキと呼ばれるワイヤーや針金の端に布や木を巻き付けた物でスライスしていきます。そうしてできた粘土の板で作るものをたたら成形と呼んでいます。最近ではたたら成形機というものもありまして、それだと均一で厚みの揃った板が作れます。しかし、手作りの面白さやぬくもりの感じられる作品を作りたい場合には、少々不向きでありますし、高価であることと、場所をとるのでアトリエの広さも必要です。そういったことを考慮して、私たちは今は手作りで制作しています。
型おこし
型おこしには、大きく分けて2つあります。お皿や鉢や湯呑などを作る時によく使われる、器の内側や外側をかたどった型に土の板を押し付けて作るものと(内型、外型)、干支などの人形や箸置きを作る時によく使われるもので、2つの型を合わせて一つの形を作る(合わせ型)ものがあります。私たちは人形やコーヒーカップの取っ手を合わせ型で作っていて、原型や型は手作りしています。
【技法】①作りたい作品の原型を粘土又は石膏で作ります。②それをガラス板の上で半分を土で埋めます。③周囲に土の板を巻きます。④カリ石鹸(カリウム石鹸)を泡立てて、原型の表面に膜を作ります。⑤ほどよい生クリーム状になった石膏を流し込みます。それぞれポイントはあるのですが、やはり一番重要になるのは、原型がきちんと抜けるように計算しながら作るということです。そうしないと、型を外す時に抜けなくなってしまい、型を破壊して作り直したり、時には原型まで泣く泣く破壊することになります。原型作りからこの間少なくとも五日間は経過しますので、精神的に参ってしまい、かわいい動物たちときれいなお花畑を駆け巡りたくなります。しかし廃棄には費用がかかるのを思い出してすぐに現実に戻ってきます。そういったことを乗り越えて、原型の表と裏をそれぞれ型取りして、合わせ型をつくります。
紐作り
この手法は、縄文時代から続く技法で、いろいろな器にも使われるのですが、花瓶や人形を作る時にもよく使われる技法です。手のぬくもりを感じるものから、精密な作品まで、多くの粘土による作品を作ることができます。
【技法】作り方は、まずは、手まわしろくろの中央に高台(底)になる部分の粘土を乗せ、手のひらで押さえていきます。ある程度均一に押さえたら、高台(底の部分)の大きさでカットをします。ここから紐を作ります。ちぎった粘土を手をすり合わせるように伸ばしていき、ある程度伸びたら机の上で手の指の先から付け根まで使って転がしながら、伸ばしていきます。こうしてできた紐を積み上げて作ります。その時に紐と紐の間に境目が残るので、指でならしたり、板などで叩いたりして消していきます。
装飾①
彫り
多くは半乾燥の時にマガリや削りガンナ、竹串などで掘っていくぎほうです。私達が使用している釉薬(器の表面にかけられたガラス質で覆われた部分)は、その雰囲気と彫りの相性がより私たちの想いに合うと思いましたので、良く使う技法です。
作品によっては乾燥状態や半乾燥状態の時に線彫りして模様を掘ります。私が使う道具は、竹串やデザインカッターや弓ノコの鋸刃などを使います。図案のアタリを付けた後に彫っていくのですが、気を使う点としましては、彫る面に対してできるだけ垂直に掘っていくことです。多少は線の抑揚で味わいになるのですが、それを越えて極端に線の幅が広くなったりすると主張が強くなり、全体の雰囲気に影響がでてしまいます。もう一つの注意点は線の深さです。線は浅すぎると焼きあがった時には、表面の釉薬に埋もれて見えなくなってしまいますし、深すぎると先程の線の幅と同じで、雰囲気を壊してしまいます。
仕上げ
仕上げは、削りかすをはらったり、へこみや欠け、キレなどの確認をしながら、時には水拭きを行います。わずかな傷などをならして綺麗にする目的もありますが、部分的に角が鋭角になっていると、焼きあがった時にそこで指をケガする危険がありますので、水拭きでならして、安全になり触り心地もよくなります。水拭きもまた、やりすぎれば雰囲気を損ないかねませんので、注意がひつようです。
乾燥
生き物にとって、水と空気は必要不可欠ですが、焼き物にとっては素地中に残った水と空気は天敵です。なぜなら作品作りの失敗の多くはこの水と空気によるものだからです。空気は粘土を練る時、作る時に入らないように注意しますが、水は成形の終わった作品の乾燥時に注意が必要です。特に気を付けることは時間と風です。例えばコーヒーカップですと、取っ手がついています。私は半乾燥時に取っ手を接着します。早く乾かそうといきなり外に出してしまうと、カップのボディと取っ手では、土の厚みが違いますし、風にあたる表面積も違いますので、口元と取っ手が早く乾き、高台の辺りはまだ湿っているので、その乾燥差でキレが入ったりします。また取っ手とボディの間はドベ(ノタ)という粘土を水でのり状にしたもので接着していますが、その部分の収縮差で取っ手が取れてしまったりするのです。
素焼き
素焼きと言うのは、下絵付け(釉薬の下にある絵付け)や釉薬かけをする前に、私達でしたら800度で焼く事をいいます。(注:素焼きの温度は使う粘土やどういった作品を作るかによって変わります。)そうすることでその後の工程の下絵付けや釉薬かけを無理なく行えるようにすることが出来ます。ほかの作家さんやメーカーさんの中には素焼きを行わないで、生の素地に絵付けや釉薬をかけて本焼きをされる方もおられますので、焼き物と言っても粘土の性質に合わせながらも、考え方や方法は十人十色でとても興味深いです。
前半はここまでになります。最後まで、お読みいただきありがとうございました。